#2. 研究で得た知識を現場に落とし込みたい
若手鍼灸師の活躍をクローズアップする「レボLABO!」 第二弾は、筑波大学大学院 人間総合科学研究科 体育学専攻で研究しながらサッカーチームのトレーナーとして活躍している 㓛刀峻(くぬぎ しゅん)さんにお話を伺いました!
Q1.なぜ鍼灸師という仕事を選びましたか? 学生時代にサッカーをしていたのですが、高校1年生の時の部活の練習中に、膝の前十字靭帯を損傷するという大怪我をしたんです。その時に手術後のリハビリを病院で受けていました。ある程度動けるようになってきたものの、膝の関節可動域が十分に改善出来ずリハビリが滞っていた時期に、鍼灸師の先生を紹介して頂きました。鍼灸治療で膝の関節可動域や疲労など劇的に改善したのを経験し、そこで鍼灸に興味を持つようになりました。 高校卒業後も大学に進学しサッカーを続けていたのですが、大学卒業後の進路を考えていたところ、高校時代に鍼灸を受けた経験のインパクトが大きく、鍼灸の道を志す事となりました。また、学部の先輩で鍼をテーマに卒業論文を作っている方がいて、「鍼灸がこんなに効くのはなんでだろう?」という疑問を感じた事もきっかけの一つです。
Q2.今はどのようなことをされてるんですか? 今現在は筑波大学大学院の博士課程の3年生で、『足関節捻挫後に起こる足関節不安定性などの後遺症』について研究に取り組んでいます。研究のデータを取りながら、研究論文を作成しています。今はまだ基礎研究で、鍼を使った研究ではありませんが、今後鍼とも繋がっていくのではないかと考えています。また、『サッカーのピリオタイゼーション』に興味があり、セミナーに行ったり文献を調べたりしています。 他には、トレーナー活動として筑波大学の蹴球部や社会人チームの友人などに鍼灸治療を行っています。鍼灸の学生に対して鍼を指導したりもしていますが、基本的には研究活動を中心に取り組んでいます。 ※ピリオタイゼーション(期分け):試合当日にピークの状態で臨むために、年間トレーニングをいくつかの段階に分け、その段階ごとのトレーニングを体系的に組み合わせること。
Q3鍼灸の魅力は? 鍼灸治療は、やはり即効性が一番の魅力ですね。実際に現場で施術していても感じるのですが、病院で画像検査などをしても痛みの原因が分からない場合に対して、低周波鍼通電療法で劇的に症状が改善した経験がありました。必ずしも鍼灸治療で全てが治る訳ではありませんが、西洋医学的に原因が分からないものに対して、東洋医学的なアプローチで治療効果を出せるという点は魅力を感じていますね。伝統的な治療方法によって、たとえ科学的に根拠がないとしても結果が出ていて、『謎』がある部分が魅力の一つでもあります。最近は鍼灸の効果をどんどん科学的に証明されてきていますね。
Q4.鍼灸の養成校時代はいかがでしたか? 大学院とのダブルスクールでの通学だったため、勉強は大変でした。大学ではスポーツ医科学に関して勉強していたため、解剖学や生理学、運動学、外傷などには比較的しっかりと学んできましたが、内科学や、臨床医学など一通り学ぶことは出来ませんでした。広く体系的に学問を学ぶことが出来たのは、現場に出た時に広い視点で物事を考えられるようになったのも大きいですね。 『なんで効くのか』という理論にとても興味があったので、理論などの話を聞くのは面白かったです。日本鍼灸理療専門学校は、様々な分野の先生がいて西洋医学的だけでなく東洋医学的な観点から話をされる先生がいて多角的な知識を得ることが出来ました。 夜間部に通学していたのもあり、色々な世代や職種の方がいて、その方達と交流できたのは大きかったですね。大学までは同世代としか接してこなかったので(笑)
Q5.現在の鍼灸業界に対してはどのようにお考えですか? 鍼灸師は、患者さんに対し理論も含めしっかりと説明できるようになるべきだと考えています。今までの経験で治療している人もいるとは思いますが、『なんで効くのか』を患者さんが理解できる言葉で落と込んで説明できるかは非常に大切ですね。科学的でなくても良いかもしれませんが、誰が聞いても納得できるような説明をすべきです。また、教科書に載っていることだけでなく、海外でも鍼灸に関する研究は積極的にされているので、そういった最新の知見を取り入れることで、治療効果も向上すると思います。評価から問題点を抽出し、治療プログラムを立案して「治療を何回すればどこまで改善が可能か」を予測出来るようになることが必要ですね。そして今後生き残っていくためにも鍼灸師だけで抱え込むのではなく、他職種と連携していくことも大切だと思っています。 現在通っている学生さんには、解剖生理学は基礎でありしっかりと学んでいって欲しいですね。人間の仕組みを知っていれば、セミナーや文献など様々な情報を自分で消化し、『合っている/間違っている』を自分で判断できるようになります。有名な人が言っているから正しいのではなく、自分で判断できるようになるためにも基礎を学ぶことが非常に重要です。 例えばトレーニングでも、負荷をかけ続ければ強くなる訳ではなく、強くするためには休息も必要です。そういった部分は生理学で勉強していくのでしっかりと学んで、様々な情報を自分自身で判断できる鍼灸師になってもらいたいです。
Q6.今後のビジョンは? 今後も研究を続けていき、研究で得た知識をトレーナーやサッカーの現場に落とし込みたいですね。その中で、ピリオタイゼーションを取り入れ広めていきたいです。その場その場の対処だけではなく、怪我の状態とチームの状態も含めてリハビリプログラムを立ててくことを現場レベルに浸透させていきたいです。練習や試合に戻るのが目的であって、痛みを取るだけでなく、どうやって復帰させていくかを考えると、練習に復帰する前は少しずつ負荷を上げていき、運動できる状態に持っていかなくてはいけません。100%復帰できる状態になってからチームに復帰させるといった現状もまだまだありますが、アップやパスの練習ができる状態になったら、部分的に参加させていったりするリハビリをプランニングすることを浸透させたいです。できればサッカーの環境があるところで研究を続けたいですね。身体だけでなく、そのスポーツの競技特性を知っている人がリハビリしていないと、怪我を再発する可能性が高いと考えています。
2013年筑波大学大学院 人間総合科学研究科 体育学専攻 修了
資格
はり、きゅう師、マッサージ師
サッカー指導者C級