#3.鍼灸のある風景を探してみたらこうなった
若手鍼灸師の活躍をクローズアップする「レボLABO!」 第三弾は、慶應義塾大学大学院 医学研究科 で研究をしながら日本鍼灸理療専門学校で専任教員として活躍している 萱間洋平(かやま ようへい)さんにお話を伺いました!
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萱間さんの生のお話を聞きませんか??
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Q1.なぜ鍼灸師という仕事を選びましたか?
元々大学では理工学部物理学科で学んでいて、当初はそのまま大学院に進学し宇宙関係の仕事に就こうと思っていました。ところが、大学の在学中に母親が急死してしまい、就職先を探すこととなりました。医療関係の仕事に就きたいと思っていたので、医療に関することも学びながら営業職であるMR(メディカル・レプレゼンタティブ、医薬情報担当者)という仕事ができるということで、製薬会社に就職しました。MRとして2年間名古屋支店で勤務しましたが、製品が売れたとしても患者さんがハッピーになれないというジレンマを感じ、さらに直接患者さんに関わる仕事に就きたいと考えるようになり、開業権もあるということから鍼灸の道に進もうと決意しました。高校時代にラグビーをしていて、親戚の鍼灸師にみてもらっていたということもあり、スポーツに関係する仕事にも興味があったことも影響していたと思います。
Q2.今の仕事に就かれたきっかけは?
鍼灸師養成校に在籍する中で、鍼灸業界のことも少しずつわかりはじめ、鍼灸が社会の中でうまく活用されていないことを知りました。自分が施術者として社会貢献するよりは、教育制度の整備や、社会への鍼灸の普及を図ることで、鍼灸がもたらす利益を社会へ還元したいと考えるようになり、教員養成科に進学することにしました。
2年間の教員養成課程を終え、そのまま母校である花田学園で専任教員として勤務していました。専任教員1年目を終えるタイミングで、花田の先輩でもある慶應義塾大学の鳥海春樹先生が神経内科の大学院生募集のポスターを学校に掲示してくださりました。鍼灸のよさを外へ伝えるにも、その効果機序を科学の言葉で十分説明できない現状に悩み、大学院での研究も考えていたところでした。まずは見学をと思っていたのですが、見学したその場で大学院に進学することを決意してしまいました。鳥海先生の熱意に引き込まれたと感じております。現在は修士から数えて5年目、博士課程の3年生になります。
Q3現在はどんな活動されていますか?
花田学園で専任教員を務めるかたわら、大学院生として慶應義塾大学医学部の神経内科に所属して、頭痛グループでの頭痛病態の基礎研究をしています。「頭が痛い」とは一体どういう状態なのか、そのメカニズムを解明するのが仕事です。実は頭痛の病態も、頭痛になる理由もはっきりとはわかっておりません。鍼灸は体の表面を鍼やお灸で刺激したりする、いわば体性感覚を入り口とした医療技術で、臨床的にも頭痛には有効性の高いものであることは、鍼灸師であればよく知っていることであると思います。頭痛病態を説明することができれば、鍼灸がそのどこに効いているのかを説明することができるという、開業鍼灸師として生業をたてていた鳥海先生のツボをついた鍼灸研究に対するコンセプトに非常に共感しました。病態のことが良く分からないまま「ツボに鍼を刺したら効きました」では鍼灸の機序を解明したことにはならないと思っています。それは単なる観察であって、サイエンスではありません。一次性頭痛といわれるものは直接死に至る病気ではありませんが、苦しんでいる方は沢山います。頭痛以外にも変性疾患などもそうですが、治らないと言われているものをどうにかしたいといった強い思いで仕事をされている専門の医師と一緒に考えていくことのできる環境はすばらしいと思います。今後、消化器や循環器などの専門領域での研究が進んでいくことを期待しています。そのことは鍼灸師の知っている生理学的反応や、東洋医学的人体観を現代に活かすと換言してもいいと思います。あるいは、古典を現代医学の言葉、サイエンスの言葉で書き換えるといってもいいのではないでしょうか。
2足のわらじを履きながら、今年の5月からは神奈川県鍼灸師会の広報普及部長として色々な方にお世話になりながら少しずつですが鍼灸の普及啓発活動も始めております。
Q4.鍼灸の養成校時代はいかがでしたか?
鍼灸学校の学生時代は、様々なバックグランドを持った方が多く、刺激的で楽しかったです。
授業は国家資格一辺倒ではなく楽しかったですね。今にしてみると、もっとちゃんと勉強しとけばよかったと思います。東洋医学は当時ピンときていませんでした。病理学の先生が面白く、病理学好きでしたね。入学し最初の1年半は、知り合いの紹介で整形外科にてリハビリ助手として運動指導や物理療法を担当していました。2年生の後半からは鍼灸マッサージ治療院で働くようになり、3年生からはさらに休日に親戚鍼灸院の助手をしていました。スポーツ関係にも興味があったので、CSCSなどのトレーニングの資格を取ったりもしていましたね。
Q5.現在の鍼灸業界に対してはどのようにお考えですか?
いくら卒後教育や法的な仕組みを作ったところで、実務をこなすのは地域の鍼灸師一人一人であり、個人レベルの問題だと考えます。鍼灸の技術力だけでなく、地域とのつながる力も含めた一人一人のレベルアップが必要です。今は西洋医学でできないことを治すといった立ち位置にあり、どちらかというと「対抗する」存在になってしまっています。これからは地域医療における仲間として認めてもらい、他職種と力を合わせていかなげればなりません。団塊の世代が75歳以上になる2025年問題では医療資源が大きく不足してくるといわれております。そのような状況に逆に乗っかることができなければ鍼灸師の立ち位置も厳しくなってしまいます。2025年問題に向けて戦いはすでに始まっており、業界全体で力を合わせて取り組んでいきたいですね。
Q6.今後のビジョンは?
鍼灸が使われる場面がまだ少ないので、もっと外からの目に触れるようにしていきたいですね。その時に、患者さんの状態を「ツボ」とか「気」ではなく医療医学における共通言語で語り、その上で鍼灸師のオリジナリティである東洋医学を語れるような学生を育てる教育システムにしたいと思っています。共通言語に関しては勘違いされることがあり、西洋かぶれとか医者の真似事と言われますが、あくまで同じ土俵に立ちましょうというものです。脈診や舌診など東洋医学の良い部分を切り捨てるのではなく、良い部分をクローズアップしてもらうためにも、共通の土台に立った上で専門的な立場を貫くのが良いと思っています。また、学位を取得することで社会に対して発信できることも増えるのではないかと考えています。今年度から神奈川県鍼灸師会の理事にもしていただいているので、鍼灸という医業技術や鍼灸師の活用の仕方を、地域の中で行政も巻き込んで一緒に考えていきたいです。無資格者を排除したりするような方向で鍼灸師の立場を守るのではなく、プロの医療者としての鍼灸師を押し出して、できることをアピールしていきたいです。
いずれ小さい子供たちが将来の夢に鍼灸師を選ぶような世の中にしたいですね。
Q7.学生に向けて
なんで鍼灸師になりたいのかという想いはとても大切です。つらくなったら原点に立ち返ってください。また、方法に対してあまり正解を求めようとしすぎないで欲しいですね。むしろ患者さんのために東洋医学の専門家として何ができるのかを考えることが大切です。今は自分たちだけでやっていくという時代は終わっていると思っています。学生のうちは固執せず、広く受け入れてください。東洋医学はもちろん大切ですが、あくまで西洋医学は共通言語なのでしっかり勉強して欲しいです。東洋医学と西洋医学は全く反対の異なるものと考えている人もいますが、同じものを違った見方で見ているという考え方が大切です。学生時代に加え免許をとって5年間は死に物狂いで勉強して欲しいです。そういう取り組みがないと、色んな意味で見えないものって見えてこないと思います。
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萱間さんの生のお話を聞きませんか??
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《プロフィール》
2004年慶應義塾大学理工学部物理学科卒業
同年 第1ラジオアイソトープ研究所(現 フジフィルムRIファーマ)入社
2006年 退社
2009年 花田学園 日本鍼灸理療専門学校卒業
2011年 呉竹学園東京医療専門学校 教員養成課程 卒業
同年~現在 花田学園 日本鍼灸理療専門学校 専任教員
2014年 慶應義塾大学大学院医学研究科修士課程修了
同年~現在 博士課程
《取得資格》
2009年 鍼灸師 あん摩マッサージ指圧師取得